『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』/考えることの難しさは、愛おしさにつながる

2014年10月3日

アバウトタイム

 

★★★★(4/5)

 

主人公ティムは21歳を迎えた時に、父親から家系(男だけ)にまつわるある秘密を知らされる。それは自分自身の人生において思い出せる「時(場面)」であれば、そこに戻れるという能力が自分に備わっているということだった。かくしてティムはその能力を活かして恋人作りに奔走し、幸せな日常作りに励むのだった…。

 

 

 

タイムトラベルによって人生をやり直すといった作品にある一定以上の面白さがあるのは、主人公がたとえどんなに素晴らしい能力を持っていたとしても、その物語には必ずある種の弊害が待ち受けているということだ。たんにやり直せたとしても、そこからは決して満足することのできない意識としての問題。実存的な問題になればなるほどその弊害は普遍的なテーマへと変貌していく。

 

人は「もしあの時、別の選択をしていたら」と思うことによって、複数の自己を想像することができる。そうすることによって「今ここ」にいる自分を「複数の自己」に関わるものとして、つまり客観的であろうとする態度おいて認識できる。例えば平野啓一郎は「分人」という考え方によって、様々な立場における自分と他者との関わり方について言及しているし、東浩紀は「弱いつながり」において、別の一面を持つ自己を想定することによって未来を切り開くヒントを得ようとしている。そのどちらも結局は「複数の自己」から派生していくような「自分」を捉えようとしている。

 

     私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)       弱いつながり 検索ワードを探す旅

 

この「複数の自己」を生み出す手法としてタイムトラベルが活用されているわけだが、SFとしての要素に収まり切らないある別の様相が垣間見えた時に、この『アバウト・タイム』は加速度的に面白くなっていく。

 

タイムトラベルという設定がこの作品の中で意味を成してくるのは、主人公ティムによる欲望が、あくまでも目の前の問題にしか向けられていない部分にある。そのことによって、この物語はあくまでも限りない日常を提示し続けている。世界を劇的に変化させるというよりも、ちょっとした自己の変革による世界認識としての可能性。それは常に日常の中において描かれる。しかし、何度も繰り返されるような日常の中で「自己」を見出すということは、ひどく難しい。これは、一体どういうことだろうか?

 

以前NHKの『哲子の部屋』という番組で、『恋はデジャブ(Groundhog Day)』という作品を題材にして、日常における視点の変化というテーマを扱っていた。例えば「考える」という行為について。発想を少し変化させてみると「日常」とは逆に「考えないこと」による行為の集まりだとも言える。つまりそれは慣習であり、日常生活の中で人は考えることはできないのだ。なぜなら人間とはある唐突な出来事に出会った時に、はじめて「考えさせられる」存在だからだ。だから、自らが進んで「考える」という表現は傲慢にしか過ぎないのだ。それは自由意志(実存)としての問題だ。

 

『恋はデジャブ(Groundhog Day)』
ある同じ日のループにハマり込んでしまった男の話。
彼は繰り返される日常から何を学んでいくのだろうか?

 

『アバウト・タイム』も同様である。主人公ティムははじめ、たとえどんなに悩んでいたとしても、物事をよく考えていなかった。それはあくまで彼の「慣習」によるものだから。けれども、タイムトラベルを繰り返すことによってどうしても避けられないような、ある「考えさせられる」自己の一面に近づいていくようになる。

 

僕がこの作品に魅力を感じた部分は、日常を見つめ直す主体性によって幸福になるということではない(それはたんに慣習によって意識しただけかも知れないからだ)。「考える」ということの難しさが、ティムの「複数ある自己」を通してうまく表現されていたからだ。人は考えることの難しさを認識すればするほど、「今ここ」にいる自分(他者)をまるで郷愁するかのように愛おしく感じるのだろう。 END

 

 

『恋はデジャブ(Groundhog Day)』の町山智浩氏による解説。
「永遠回帰」としての繰り返しから、どのように人は倫理感を抱くようになるのか?

 

『オール・ユー・ニード・イズ・キル』
同じく「繰り返し」によって、ある変化をしていく男の物語。
人生の美しさとしての描写は皆無だが、他者に対する「愛おしさ」は十分に感じられる作品だった!

 

 

 

追記


 

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