『0.5ミリ』/不可解な人生が面白くなる

2014年11月13日

05ミリ

 

★★★+(3.5/5)

 

死ぬまでいきよう、どうせだもん。」という言葉がさりげなくポスターデザインに挿入されている。実は映画を観た後にこの文言に気付いた。なるほどな、と思う。ただ、介護や余生の問題から滲み出てくるような死生観のみが描かれている、というわけでもない。

 

主人公山岸サワ(安藤サクラ)は、ある出来事をキッカケとして正規としてのヘルパーから放浪ヘルパーへと転身する。冒頭でのクラッシク音楽からはじまる優雅な介護シーンも束の間、笑いが存在したかと思えば、あっという間に彼女はどん底へと突き落とされる。不謹慎だけどツカミは完璧だ。その瞬間に、普通ではないドラマがはじまったことを理解する。このような構造は物語全体にひろがっていて、喜怒哀楽な出来事が絶えず繰り返される。196分間という長さもあるが、この映画には多くの感情が含まれている。良い意味で、解釈不能の多様性があるというのもこの映画の特徴だ。

 

 

かくしてサワは行き当たりばったりな行動をするようになるが、介護や料理といった技術は本物だ。尚かつ多面的な考え方の持ち主のようにも思える。ただ、時折見せるサワの表情は暗くて重い。人生は「不可解」なのだ。別れた老人を遠くから見つめるサワの姿はまさに沈黙といった感じで、彼女が何を想っているのかは分からない。ただ、そのような不可解さは必ずしも負の側面を持つとは限らない。サワの持つ多面的な思考とは一体何なのだろう?

 

そもそも、他人の持つ感情を一から知る必要などあるのだろうか? 僕がこの映画から得た問いかけだ。他人の全てを理解しようとするのではなく、他人の多様性を知ることが大切だ。サワの多面的な思考とは、サワ自身に内在するものではなくて、出会った人々から伝わってくる感情のようなものだ。サワは思うのではなく、うまく感情を引き立てるのだ。

 

劇中7分間の演説をした真壁義男(津川雅彦)のように、目の前に存在しない過去や未来の他者を想像してみる。自分と一度も出会うことがないであろう他者の世界が、恐らく無数に存在するということは、本当に不思議だ。このような人生の「不可解」さ…。同じようなことをサワがつぶやきながら食事をするシーンがあって、とても印象的なシーンがある。フード理論にひとつ小さな法則を付け加えるとするならば、何気ない食事のシーンほど、登場人物達は自分の感情を語りたがる。サワは「無数のドラマ(リンク先ページを参照)」を自分に取り入れながら生きていく。

 

ただ、僕がこの映画に対して一番印象的であったのは、逆説的ではあるけれど、とにかく沈黙の風景がとても美しかったこと。ある老人が外へ出歩き、サワから貰った手作りの弁当をひとり黙々と食べるシーンがある。豆御飯(確かそら豆だった)と卵焼きの組み合わせは本当においしそうで、ただそのシーンだけで感情がゆさぶられる自分がいたこともまた驚きだった。これもまた多様な感情の獲得。 END

 

 

『めぐり逢わせのお弁当(2013年)』
「弁当」自体が主題の映画だ。本来は絶対に出会うことはないであろう他者と「たまたま」出会うことによって、登場人物達はどのように感情がゆさぶられていくのだろう。こちらも老いのテーマが介入してくるが、他者との距離感が素晴らしかった。

 

 

 

追記


 

2014年 第88回キネマ旬報ベスト・テン

日本映画ベスト・テン 2位

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