『6才のボクが、大人になるまで。』/目的のない物語が、とてつもなく意味のある風景となるまで。

2014年11月17日

boyhood

 

★★★★+(4.5/5)

 

一人の少年の12年間の歳月を描いた物語。その少年を一人の役者が演技する。39日間の撮影で12年間をカバーしたらしいこの映画。さすがにすごいと思うけど、そこからどんな意味(感動)が生まれてくるのだろうと半信半疑。だって、そうでしょう、もうポスターからして牧歌的な風景だ(偏った見方)。ところがどうだろう…。観ているうちにだんだんとある感覚に包まれていく自分に気が付くこととなる。

 

 

以下ネタバレあり
筋はほぼ語っていないが、この作品の本質はある種の「感覚」を抱くことであって、感動を本当に味わいたい人は読まない方が得策だ。

 

 

メイソンJr.(エラー・コルトレーン)は6歳の少年だった。彼は少し年上の姉といつも喧嘩ばかりしている。至って平凡な風景だ。ただ、母は父と離婚し、引っ越しをすることになる。その当日、メイソンは母の運転する車に乗った。少し走った所で、いつも一緒に遊んでいた友達が自転車で駆けつける。メイソンはそれに気が付くが、特にさよならを言うわけでもなく、家族と共にその土地を離れていった…。

 

 

物語のなかの違和感

 

うん? 上記のようなストーリーを言葉だけで追っているとそのうち自分でも忘れてしまいそうになるが、ここである種の違和感を感じるようになる。離婚の理由がよく分からない。あまりにもたんたんと物語が進むからだ。この映画を観ていると、出来事をしばしば遠くから眺めているような感覚に捉われる。しかしその感覚はだんだんと確信として現れてくる。

 

その感覚の発端は、メイソンが6才の時の友達との別れのシーンだった。そのシーンは作品に対するメタ認知として、実はおよそ12年前の出来事だということは知っている。だから、あの友達は12年前の姿である。物語上では「いま」であるはずなのに、なぜか儚く感じてしまう。架空の物語であるはずなのに、もう二度と出会わないであろうその瞬間に気が付くのだ。この映画にはこのような違和感がたっぷりと詰め込まれている。そう気が付いた時に、日常の何気ない風景が、だんだんと心象の風景として映し出されてくる。この映画には一回性の物語が描かれているという確信が生まれる(『物語る私たち』のレビューを参照)。

 

観察映画とは何か?

 

選挙(2007年)』(想田和弘監督)という映画がある。山内和彦という実在する人物が、川崎市市議会の補欠選挙に出馬する模様を映したドキュメンタリー作品だ。想田監督は自らの撮影手法を「観察映画」と呼んでいて、撮った映像をナレーターや音楽を入れずに編集していく。そしてその一番の大きな特徴は、撮影の際に目的を設定しないこと。例えば、当選したというのに山内さんが事務所に居ないシーンがある。応援していた周りの人は『礼儀を知らない奴だ』とぼやく。想田監督は、もし当選した山内氏が事務所で万歳をするという風景を撮ると決めていたら、このようなシーンは撮れなかったと言っている(※1『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』)。目的を設定しない観察映画の可能性がそこにある。

 

 

結果的にそのような「観察映画」には、ある出来事が生じる理由や人物の内面を描くようなプロットが存在しない。「王が死んだ。それから王妃がその悲しみのあまり死んだ」。これはプロットである。その一方で「王が死んだ。それから王妃も死んだ」という表現がある。これはたんに順番を描いたものストーリーと呼ばれる。

 

『6才のボク』は完全にストーリー主体の物語だ。プロットの物語に慣れている僕(ら)にとって、この単純なストーリーからにじみ出てくるような意味(感動)というのは、リンクレイター監督が編み出したひとつの発見でもあるのだ。それらは全て、観察的な世界に対する捉え方、そして12年の歳月からくる一回性による心象が重なった時(瞬間)にやってくる。 END

 

 

物語の最中で様々なポップカルチャーが混入される。時間経過のみならず、時代を感じさせる要素としてApple製品のショットなどが多用される。あの時、自分はああだったな〜と感慨に耽ってみたり…。

iMac-Bondi-Blue-1998

 

弟、姉、父での食事シーン。父(イーサン・ホーク)から彼氏について質問される姉(ローレライ・リンクレイター)が妙に愛おしく感じられる印象的なシーンだ。実はこの姉が監督の実の娘であることを後で知った。監督(父親)と長年の仕事仲間であるイーサン・ホークからの本当のイジリだったのねと想像してみたり…。

食事シーン

 

町山さんの解説。リンクレイター監督は物語の内容(目的)を決めずに作品を撮っていった。

 

上記動画での解説や、公式サイト・芝山幹郎氏による解説にも取り上げられているが、子供達の一生を追っていくイギリスのグラナダ・テレビが制作したドキュメンタリー番組『UPシリーズ』も興味深い。

 

プロットとストーリーについては下記の本を参照した。

 

※1

 

 

追記


 

2014年 第88回キネマ旬報ベスト・テン

外国映画ベスト・テン 2位

 

 

第87回アカデミー賞>助演女優賞 パトリシア・アークエット

 

 

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