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『群像2016年4月号』「人生の意味」鷲田清一×大澤真幸

2016年3月25日

群像 2016年 04 月号 [雑誌]

 

 

目的とは一体何か?

 

何事も過程が大事とは言うものの、その過程の先にある意味を求めてしまうというのが人間の本質と言うべきかもしれない。ただこのような考え方の中には、根本的な何かが抜けているのではないかと感じてしまうのも確かだ。本対談には、このような思考のフレームワークをなぞる上で、または、あえて遡行するためのヒントが多く語られていると思う。

 

例えば対談の中で、二つの「目的」が取り挙げられる。それは「in order to」と「for the sake of」という言葉だ。どちらも文脈を無視してしまえば、「〜のために」という意味を成すが、これら二つの言葉の差異は何だろう? 鷲田氏は次のように述べている。

 

「イン・オーダー・トゥー」というのは、ある目的の実現するための手段として、この仕事にはとても意味があるというユーティリティ(有用性)の思考。「フォア・ザ・セイク・オブ」は、何かの目的のためではなく、その仕事をすること自体に完結した意味があるというミーニングフルネス(有意味性)の思考です。

 

この目的に対する発言は、ハンナ・アレントが『人間の条件』の「手段性と<工作人>」という項目で記述している文章をヒントにしたものだが、実際にアレントの著作を引用してみよう。

 

有用性と有意味性の区別(〜省略〜)この二つの事柄の区別は、言葉の上では、「ある目的のために」(“in order to”)と「それ自体意味ある理由のために」(“for the sake of”)という区別として表現されるものである。

『人間の条件』p.245

 

人間の条件 (ちくま学芸文庫)

 

有用性(in order to)としての目的には際限がない。もしくはいつかは「究極の目的」にたどり着けると錯覚してしまうような思考そのものである。なぜ働くのか?それはお金を稼ぐため。なぜお金を稼ぐのか?モノを購入するため。なぜモノを購入するのか?…という思考の「目的連関」も有用性の呪縛によるものである。

 

アレントが述べているのは、主に功利主義に対する懸念でもあった。功利主義とは「最大多数の最大幸福」であり、有用性を主点においた目的主義でもある。つまりは個人のミーニングフルネス(有意味性)としての活動を考えるということが、「人間の条件」へのきっかけとなる。

 

しかし有用性(in order to)を脱し、有意味性(for the sake of)に根差した考え方が必ずしも幸福につながるというわけではない。むろんこのような二つの目的に対する態度が、同じ意味として成立しているのがポスト・モダン以降の世界観である。目的のための手段自体が目的となってしまったというように(恋愛自体に恋をした)、現代社会ではいつの間にか、有用性(in order to)としての手段が、有意味性(for the sake of)としての目的に置き換わってしまった(これを踏まえて、たまたま見つけたこの質問を読んでみると良く分かるだろう)。

 

以前に「自分探し」という言葉が流行ったが、これもまた二つの目的の置き換わりとして捉えることができる。対談でも言われているように、高度成長期の「どうすれば他人に必要とされるか」という有用性としての問いかけから、「他人になくて自分にしかないものは何か」という有意味性としての問いかけへの変遷である。つまり「過程」として考え続けるべき「for the sake of」としての目的を、人生の「問い」かけとして考えてしまうのである。過程を見続けることと、問題として扱う(答えを求める)ことは違う姿勢であることを、人はしばし忘れてしまうのであろう。

 

自分探しが止まらない (ソフトバンク新書)

 

人間の存在理由として「神」もしくは何かしら「外部的」なものが土台となっているような生き方において、その土台が突然崩れ去ったような時にニヒリズムがやってくると考えられる。また何かを考え行動しようとする時に、ありとあらゆるモノやコトが何かの目的のために在ると考えてみることは短期的には有用かも知れないが、それはそれでアリストテレスのモノの先にある究極的な見方(目的因)、つまり究極的には神であるという思考と基本的には変わらない。しかしその反面、純粋に「for the sake of」としての存在を、自分自身の心に抱くことも難しいのだ。結局はそのような二つの目的の間で、日常や未来を見据えた思考を続けることだけが、「人生の意味」としての醍醐味なのだ。

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