『セッション』はヒューマニズムの何を伝えるか?

2015年4月24日

セッション

 

★★★★★(5/5)

 

 

人は社会の中で生きる。そして夢や希望を追求する。社会には規律がある。しかし時としてそんな規律が人生の邪魔になる場合がある。人は世間において最高の人間になることが目的ではないが、最高の自分自身《実存》であろうとする。ただ、それがこの私にとって本当に幸せな生き方なのだろうか?

 

 

 

 

 

フレッチャーの不安

 

セッション』は将来への夢を誓った青年ニーマン(マイルズ・テラー)と、ジャズという美学を追求する男フレッチャー(J・K・シモンズ)の物語だ。フレッチャーのジャズに対する在り方は常人の存在を吹き飛ばすほどの強さを持つ。彼のジャズに対する姿勢(教え)において、社会のルールなど存在しない。教え子に罵詈雑言を浴びせ、椅子を投げつける。それはかつての教え子が鬱になるほどの、とてつもなく強引な指導法だ。

 

 

けれどもこのようなストーリーの中で、社会の中の規範はどのようにして作られるのかといった思念もわいてくる。フレッチャーはたんに自分自身を生きていたのだとしたら? 音楽、とりわけ芸術に対する観点は道徳のようなものとして語られる時がある。相対的な視点を持つことの不条理さ、すなわち美学としての問題だ。自分を追求するほどに、社会の前提が揺らぎ出す。それを実存の不安と呼ぶ。まさに時計の針(時間)とリズムだけがフレッチャーの世界に対する存在の拠り所となる。

 

 

フレッチャー

 

 

『実存主義とは何か』の中でサルトルは、「世の人たちが美術家にたいして、先験的に定められた規則にもとづかずに絵をかくといって非難したためしがあるだろうか」と述べている。この言葉は、実存的な自由における神の不在や無価値といった批判に対して彼が答えたものだが、それと同じで、フレッチャーのジャズを追求する心の在り方を知れば知るほどに、私達は同じようなテーマをこの映画から思い描けるのではないだろうか。規則(世間)の後に自分がいるのか、私は私であるべきか。そして暴言や逸脱といった行為を考える前に、フレッチャーの孤高さがとてつもなく印象的な姿として映し出されてくる。たとえ彼の最悪な部分を取り除いたとしても、私は彼のように生きることはできるのであろうか。

 

 

実存主義とは何か

 

 

一方ニーマンはどうだろう。はじめのシークエンスにあるように、彼もまたフレッチャーから直感的に認められた人間だ。そしてやはり自己自身であろうと奮闘する。朗らかな彼の姿がだんだんと変化してしまうのは、美学を追求する単独者としての宿命か。フレッチャーが社会の規範を押しのけて指導するのと同じように、ニーマンが人を拒絶してしまうのは、創造と規範の物語がそこにあるからだ。

 

 

WHIPLASH

 

 

物語の効力

 

つまり、社会性だとか規律から抜け出た個人のペルソナが浮き彫りにされたような時に、人はどのように希望を見出すのかをストーリーで提示してくれる映画なのだ。彼らにとって必要なのは、挫折をするのかしないのかという命題のみだ。サルトルが「行動のなか以外に現実はない」といったのは、セッションから抜け出た者の励ましのためにある。奏でるべき音楽とは、まさに彼らが演奏し終えた後にしかやってこない。

 

 

もちろんそのように言ってみたところで、フレッチャーやニーマンのような在り方を自分自身の生き方の材料として取り上げるのは馬鹿げている。ましてやそれを他人に押し付けた所で、すでにそれは道徳的なひとつの判断へと追いやられてしまうだろう。彼らの不安は決して参考にはならないのだ。けれども、たとえ無意味だとしても意味を考えるという行為自体に「意味」があるように、彼らの規範や夢に対する姿勢にもまた「意味」がある。「自分を正当化する価値や命令を目前に見出すことができない」(サルトル)ような時に、この『セッション』のような物語は効力を発揮するのである。 END

 

 

人との対峙が印象的なのは、創造と規範の物語がそこにあるからだ。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年)もまた同じような構造を持つ。

グッド・ウィル・ハンティング

 

 

 

追記


 

 

菊地成孔氏の評価

「セッション!(正規完成稿)~<パンチドランク・ラヴ(レス)>に打ちのめされる、「危険ドラッグ」を貪る人々~」

 

 

町山智浩氏の評価
菊地成孔先生の『セッション』批判について

 

 

 

 

2015年 第89回キネマ旬報ベスト・テン
外国映画ベスト・テン 7位

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