〈未来〉のつくり方 シリコンバレーの航海する精神

2015年6月12日

 〈未来〉のつくり方 シリコンバレーの航海する精神 (講談社現代新書)

 

 

 

かつて「大きな物語」として語られてきた社会の文脈は、今では姿を変えてウェブやその周辺、そしてそれらに付随するような技術によって未来へと投影されるようになった。例えば、2045年に人工知能が人間の知を超えるだろうとされる「シンギュラリティ」という概念は、もはや現実化しつつある自動運転はともかく、生命科学の進歩においても、ひとつの指標となってきていることは確かだ。

 

 

ムーアの法則が普遍的な法則であるかのように社会に定着し、その法則通りに社会が変化していく。つまり「未来はつくられるものか?」という疑問が、本書が指し示す大きなテーマとなっている。

 

 

著者である池田純一氏は『ウェブ×ソーシャル×アメリカ<全球時代>の構想力』という本の中で、ウェブの世界を征してきた企業をおおよそ次のようにカテゴライズしている。アップルは「美」を追求し、Googleは「真」で世界を捉え、Facebookは「善」を拡大する(僕の書いたブログはコチラ。このようにそれぞれの企業の動機や目的を考えるということは、もはやアメリカだけではなく世界を語る上で不可欠となってきた。

 

 

 

 

それでは、これからさらに語られるべきこととは一体何だろう? 結論から言えば「歴史」である。と言ってもそれは個々の人々の思いが複雑に絡まり合ったような世界のことだ。ジョブズがカウンター・カルチャーの影響を受けたことは有名だが、個人の夢や思惑が世界をどう捉えていったのかが、また歴史となって反映される。著者はこのような在り方を再帰性と呼ぶが、ビジネスにおけるPDCAサイクルのような反復の在り方も、結局は人間が社会に対してどう実践していくのかという枠組みにおいて考えだされたものだ。

 

 

そしていま、IT業界に話題を提供し続けているのはビジョナリ投資家達である。例えば、ブラウザを開発し、誰もがウェブを扱えるようにしたマーク・アンドリーセンは、1999年にNetscapeを売却し、投資家に転身した。彼は現代社会に対して「Why Software Is Eating The World」(リンク先の一番上のリンク記事)というエッセイを書いているが、これはクラウドという言葉と重ねてみるとよく分かる。つまり、Amazon Web Serviceのようなクラウドアプリケーションの在り方が商業としてのサービスを変え、会社の組織形態にも変化を及ぼす。そして社会をも巻き込んでいく。いつでも拡張可能というメタ認知の在り方は、様々なレベルでの存在意義に影響を及ぼす。そんな彼が、ビットコインをたんなる仮想通貨ではない、第三の情報革命として挙げるのも偶然ではないだろう。

 

 

とにかくアメリカで語られてきたようなサイバネティックスリベラリズムといった思想が、これからも個人と社会の結びつきを考えるうえで鍵となっていくのは間違いない。時代をメタ認知の枠組みで捉えることが、〈未来〉のつくり方となっていくのである。

 

 

本書では「プラグマティズム」や「プログレッシビズム」といった古い用語から、比較的新しい「ベネフィット・コーポレーション」のようなワードまで多彩に紹介されている。一度読んだだけでは、とても整理しきれない内容だが、まるでピンチョンの小説を味わうかのような気持ちになれるだろう。それこそが「航海する精神」の在り方だ。付箋やテキストエディタのようなメモだけではなく、マインドマップのようなツールでワードを結びつけながら読むことをオススメする。

 

 

 

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