サイバースペース・アイデンティティの変遷/[Blockchain Identity][BITNATION]

2015年12月14日

bitnation

 

エストニア共和国のプロジェクトであるe-Estonia と、ブロックチェーン(blockhain)による公証サービスを展開しているBITNATIONがパートナーシップを結んだことが発表された。

 

ESTONIA E-RESIDENCY PROGRAM & BITNATION DAO PUBLIC NOTARY PARTNERSHIP

エストニア政府はオンラインにて身分保証等をおこなうe-Residency(電子居住)と呼ばれるサービスを2014年1月から施行し既に130万人程に提供してきた。今回はその拡張として、BITNATIONによるブロックチェーンを活用した婚姻・出生・土地の登記などの公証サービスが加わるという。

 

Edurne & Mayel」のサイトではこのBitnationとe-Residencyによって婚姻認証をするカップルが紹介されている。この二人はバスク人であるが、その民族は歴史的な背景において地理的な故郷が存在しない。だから特定の国家に依存することなく結婚の公証をすることができる<ブロックチェーン>を選択した。

 

BITNATIONは今までにも難民を支援する対策として、緊急用IDの付与やデビットカードを提供するサービスをおこなってきた。CEOのSusanne Tarkowskiは、ブロックチェーンによるビットコインと同じく、住む地域やどんな職業かに関わらず自身を公証することができるサービスの可能性を提唱している。つまりは「ブロックチェーン・アイデンティティ」としての可能性だ。

 

ブロックチェーンの公証としての仕組みは、以前に書いた「Bitcon2.0系サービス「Proof of Existence」の存在証明について調べてみたこと」や、具体的にブロックチェーンにデータを付加してみた「ビットコインのブロックチェーンにデータを記録する(OP_RETURNの利用)」を参照して頂きたい。いずれにせよ基礎となる個人データをハッシュ値として暗号化(正確にはハッシュ化であり、暗号化とは違う)し、それをブロックチェーンのトランザクションに埋め込めば、タイムスタンプ付きの証明となる。

 

ブロックチェーンなどによる新しい主権(sovereignty)の形はDAO/分散自立型組織(Decentralized Autonomous Organization)と呼ばれるが、BITNATIONのような仮想サービスによるアイデンティティの在り方は、今後ウェブ自体の概念を変えていくという可能性においても着目すべきものがある。

 

 

サイバースペース・アイデンティティの変遷

 

作家のウィリアム・ギブスンが小説『ニューロマンサー』によって初めて創りだしたとされる「サイバースペース(cyberspace)」という言葉がある。1996年には、アメリカ政府が打ち出した「通信品位法」に対して、ジョン・ペリー・バーロウが「サイバースペース独立宣言」を発表した。このようなサイバー空間上での自由を掲げる理念は、リバタリアニズムの立場を表明し継承するという意味ではBITNATIONも同じだが、サイバースペース・アイデンティティに対する捉え方は新たなテクノロジーの出現によって少々勝手が違ってきたようだ。

 

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

 

それは、仮想空間の中で様々なアイデンティティ=ペルソナを作り上げるということではなく、たった一つの自己の確立が求められているということだ。ブロックチェーン・アイデンティティは自己同一性のための更なる強化システムとなる。どんな<場所>にいようとも自己の確からしさを証明できる。

 

ISILなどの国際情勢をみれば分かるように、国家(state)に対して国民・民族(nation)の分類は必ずしも一致しない。エストニア政府によるe-Residencyとしての役割は、国民としてのアイデンティティを世界中の希望者に付与し、国家の更なる繁栄を助長するようにも受け取られる。無論、境界を意識することによって、国家による統治が強まるという認識に目新しさはないが、個人や契約としてのアイデンティティが国家とはまた別に、バーチャルな<主権>の中で確立されていくという流れは、テクノロジーだけではなく社会思想的にも興味深い。

 

定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)

 

LGBTといった概念としては語られつつも、具体的な政策としては中々取り上げられてこなかったような問題にも、BITNATIONのようなプラットフォームは行政よりも素早く対応できるはずだ。もちろん他のネットサービスとの相性も良い。このような社会システムがもっと認知されれば、たんなる倫理的な想像世界も議論の形として取り上げ易くなるだろう。社会構成主義としての理念 -人々の言葉の概念による社会構築の可能性- をよりリアルな世界へとあざなうためにも、この新しいサイバースペース・アイデンティティには好奇心以上の価値がある。

 

 

参考ページ


 

BITNATION

 

Estonian e-Residency

 

WIRED VOL.16 特集 お金の未来(と、かわりゆく世界)

BITNATIONの設立者でCEOの Susanne Tarkowski Tempelhof による

インタビュー記事
消える貨幣、消える国家

情報自由論 東浩紀
第5回 サイバーリバタリアニズムの限界

「自由の真の代償」と「自由の真価」 〜 サイバースペース独立宣言を越えて

BITNATIONとエストニア政府はブロックチェーンを利用して交渉サービスを行う

 

Blockchain Identity: Solving the Global Identification Crisis

‘Glomads’ Marriage Marks First Official Act Of Estonia E-Residency/Bitnation

BITNATIONのアンバサダーである大石哲之氏のブログ記事

ブロックチェーン上の未来国家、BITNATION

シリアの難民に、ビットコインデビットカードを届けよう!ブロックチェーン上の未来国家BITNATIONの試み

 

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