知の教科書『フランクル』/ロゴセラピーのフレームワーク

2016年2月9日

知の教科書 フランクル (講談社選書メチエ)

 

 

フロイトは、人間には欲望としての本能があると想定し、苦悩の原因は無意識による葛藤であると考えた。一方アドラーは、人間は劣等感を根底にした存在であるとみなし、無意識から人間の主体を取り戻すべく、過去の苦悩は今ある生の目的から生み出されたものだと考えた。

 

二人の思想は精神療法のウィーン学派として体系付けられているが、その第三学派として位置付けられるフランクルの思想には人生の「意味への意志」による志向性が掲げられている。彼は人間存在の中心を、欲望や妬みではなく、人生の意味を渇望する存在として捉えようとした。これはフランクルの編み出したロゴセラピー(実存分析)の本質でもある。

 

 

「自己距離化」と「自己超越」

 

ロゴセラピーの根底となる考え方には、「自己距離化」と「自己超越」という認識がある。『夜と霧』の中でフランクルは、アウシュヴィッツから生き長らえた精神的な強みのトリックとして、演壇でこの悲惨的な体験を人々に伝えている自分の姿を想像していたことだと述べている。このように自己を未来へと投影し客観視していくような認識が、自己距離化としての方法だ。フランクルは捕虜となる前から、既にこのロゴセラピーの技法を論文などで提出していたから、まさにアウシュヴィッツではこのロゴセラピーを「実践」していたとも考えられる。

 

自己距離化に関してのもっと具体的な技法としては「逆説志向」が取り上げられている。例えば多汗症の人物は、最悪な状況から目を背けようとやっ気になるが、意識すればするほどに事態は悪くなる一方である。不安が不安を呼んでくるからだ(予期不安)。そこでその患者に対し意識を逆手に取らせ、あえて汗をかいてやろうと態度を改めさせる。するとなぜか症状が和らいだという。このように自分を「汗をせしめる自分」として相対化してみせることが、逆説志向の重要な鍵となる。

 

自分を客観視する点においては、お笑い芸人があえて自虐的なネタを笑いに変えるシーンを思い出してみてもいい。「逆説志向における不可欠の要素は意図的にユーモアを引き起こすことである」(『意味による癒し』p.152)というのもうなずけるはずだ。

 

 

人生から期待されるとは?

 

もはやフランクルのアフォリズムとして認知されているであろう言葉がある。「人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題なのではなくて、むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである」(『夜と霧』)。私はこの言葉の指し示す方向として「自己超越」という方法があるのだと考える。端的に言えば、世界の中心を自分の外部に置いてみせるということだ。

 

フランクルによると、フロイトやアドラーの考えてきたような認識は、苦悩の原因と目的の違いはあれど、それらはあくまでも人間中心主義的(主観的)な考え方であるという。しかし、このフランクルの意図するような「人生から期待されている」という感覚は、自己超越という言葉も含めて少し分かりづらい。これら認識に対してロゴセラピーにおける人生の意味とは、どのように関連付けて考えれば良いのだろうか?

 

 

ロゴセラピーのフレームワーク

 

上記の問いかけに対して、私自身がフランクルの書籍を読み続けるにあたり、次の段階へのヒントとなるような例がある。それはフランクルのチェスによる説明だ。人生の意味を問うということは、チェスの名人にベストな詰め手は何かと質問することと同じである。すなわち、ベストな手など存在しないのだ。なぜなら、その時々の状況によって最適な手は変わってくるからだ(『意味による癒し』p.22 もしくは『それでも人生にイエスと言う』の1章)。

 

つまり、人生の「価値や意味は客観的に存在せずに、それぞれの主観によって捉えられる。しかし、それは主観から独立したもので、「超主観的なもの」である」(『フランクル』p.59)。チェスの例において超主観的なこととは、目の前の駒に対して今自分は何を成すべきかという現実的な選択肢のことでもある。だから、自分自身において理想を見つけ出すというよりも、むしろ意味とは「見つけられる(発見される)」ものなのだ

 

結論としては単純かも知れないが、それぞれの状況において、意味を行動による選択として問うていく姿勢は、現代にも十分通じてくるような考え方だ。ロゴセラピーの可能性とは、人生の価値の判断を常に流動化させるような働きを持つことだ。それはフランクルの辿って来た歴史によって証明されることではなく、自分自身の実践によって提示することができる。

 

このような「意味」としてのフレームワークは、あらゆるデータが記録されまたフィードバックされていくような再帰的な近未来の社会とも重なるだろう。これからの人間は、いま自分が何を行うべきかによって「意味」を追求していくような存在になる。

 

 

ロゴセラピーについての説明がとても分かりやすい講演

 

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